2002-01-01から1年間の記事一覧

暗夜航路

艦内は修羅場だったようだが、その後私もその修羅場に巻き込まれ、意識を回復するとなぜかそこは赤羽の安居酒屋であった。見回すと、私同様奇跡的に脱出した乗組員が数名、横たわっている。他の奴らはどうなったのだろうか。言うまでもなく、艦と運命を共に…

納めの日

仕事納め、本年最終日の本日は、皆机に向かって手を動かしてはいるようだが、目が死んでいるのであった。なんだかさっさと帰って行くなあ。またいつものように、一人フロアに残される。並んでいるPCの電源を、一台ずつ落とす。(私がこの階の電源権を握っ…

新宿にて

「伊勢丹百貨店大古書市」に赴く。久々である。会場に足を踏み入れると、主としておじさん達のマイナーな熱気がムンムンと溢れており、気合い負けしそうになるが、踏みとどまり突進。しかし事前に申し込んでいたものは悉く抽選に外れ、がっくり。こういう時…

伊兵衛翁リスペクト

木村伊兵衛『小型カメラ写真術』(朝日ソノラマ刊)を読む。昭和初年に刊行されたものの復刊だが、一読、驚くほど明晰な文章に引き込まれる。この人はごくあっさりしたスナップの名手であり、その手法に理論的バックグラウンドを与えるなどという行為はその…

深夜のB

真夜中にTVでタングルウッド音楽祭のドキュメントを放映していた。小澤征爾が学生オケ相手にバルトークの「管弦楽のための協奏曲」を振っている。見るともなく見ているうち、音楽に引き込まれる。バルトークは、不思議な音楽家だ。その音楽は、誰かに似てい…

瓦の青春

この2日、深夜泥酔して電車内を徘徊している。そういう季節である。しかし昨日、足元のおぼつかぬ私の目の前に座ったニット帽にド金髪、マスカラぐいぐいで真っ白な長いマフラーぐるぐる巻き、ジーンズをでかいブーツに突っ込んだ、要するにいまどきの若い…

誤植談義

電車に乗っていたら、ふと「沿線病院案内」という広告に目がとまった。何の気なしに眺めていたら、ある病院の案内に「人間ドッグ」とある。人面犬か。しかし試みに検索したら、「ドック」374件に対し犬派が13件存在する。一定の勢力を保っているのである。か…

生きてゐる亂歩

このところ乱歩づいていて、本郷の弥生美術館まで「江戸川乱歩と少年探偵団展」を観覧に赴く。入館してすぐ、小林少年が仏像に変装して怪人二十面相のアジトに潜入するなどというビッグイヴェントを記憶の底から掘り起こされてしまい、ありえねえと呟く。挿…

妄想閣残念堂

某所で明治の文献をひっくり返していると、昔の版元名の無体ぶりに笑いが止まらなくなって仕事にならん。「岡本偉業館」「天下堂」「報告堂」「吐鳳堂」「努力世界社」「裁縫成功舎」等々、誇大妄想狂の怒鳴り合いのようだ。今となっては、これらの愛すべき…

蔵の中

『幻影の蔵 江戸川乱歩探偵小説蔵書目録』(新保博久・山前譲編、東京書籍刊)を1日読み続ける。読み続けると言うより、見続けると言った方がいいか。この本、ただの目録ではないのである。本文の他にCD-ROMが付いておりましてね、蔵書の山の蔵のなかを探索…

昨日の記憶が無いが、捕虜になったと書いてあるから、捕虜だったのだろう。ようやく意識が戻ってきたら、京都で脱出を試みたことを思い出した。まったく久々の出張だというのに、あまりの缶詰ぶりにキレたのである。夕刻、京都駅で新幹線乗換口に入ろうとし…

俘虜記

体が緩やかに前後左右に揺さぶられている。ここはどこだろう。私は何をしているのだろうか。眠っていたようだ。そうだ、私は敵陣に向かい、たった一人で突撃を敢行したのだった。とすれば、名誉の戦死を遂げたわけで、天国に来ているはずである。とすればこ…

体調更ニ急降下、急性鼻炎ノ症状ヲ呈ス。0920時悪寒有。1210時微熱感有。1320時涙腺爆発、緊急処置施ス。1430時視界極テ不良、周囲感度アラズ。1500時上野ニテ会敵スルモ糧食弾薬尽キ、ヤムヲ得ズ後方撤退。肢体自由ナラズ。1700時司令部帰還、陣地放棄覚悟…

眠り

午後2時から激しく昼寝する。6時過ぎ起きて呆然。『写真集を読む2』(メタローグ刊)に、伝説の写真家中平卓馬──数年前事故で記憶喪失に陥った──の最近の日記が一部掲載されていたが、連日昼寝に入った時間と目覚めた時間のみが記してある。判で押したよ…

迷宮行

10年以上前、私はなんだか使えない営業社員で、ぼんやりしながら本を売り歩いたりして、うろうろしていたのであった。今もぼんやりとうろうろはそのままだが、本は売ってない。うろうろしながら、気がついたら新潟県に入っていたことがあった。書店やら図書…

木下本の指し示すもの

『世の途中から隠されていること──近代日本の記憶』(木下直之著、晶文社)で著者が拾い集めるのは、見世物、造り物、人形、お城、記念碑、ある種の古写真等々である。これらはわれわれの前にぬっと在り続けてきたが、誰一人として注視した者はいないといっ…

Keith

art

青山方面に出かけていた同僚から、そのあたりで開催されている「ストリート・ミュージアム展」の情報を仕入れる。外苑前駅からワタリウム美術館までの青山通りとキラー通りの商業施設等に、ニキ・ド・サンファルやキース・ヘリングなんかの作品が展示されて…

史郎の思い出

昨日下高井戸の駅に向かう途中、興味深い古書店+古レコード店を見つけたが、時間が無く通り過ぎてしまったので、再度赴いた。「バラード堂」という名のその店は、純正サブカルチャー系で、店の作りも古本屋臭くなく、イマドキのカフェっぽい。文芸書の棚に…

小林勇『蝸牛庵訪問記』(講談社文芸文庫)を読む。岩波書店の名編集者の、幸田露伴との密接な交流の記録である。今では信じられないほどのことだが、出版社が新卒の大卒社員を採用し始めたのは、ようやく昭和2年になってからであった(円本で儲けた改造社が…

幻視

「ロートレアモン──ロマン主義から現代性へ」と題する国際シンポジウムが開催されるというので、駒場まで赴く。ロートレアモンという詩人は私のシュルレアリスト時代(笑)のアイドルのひとりで、例のあまりにも有名なフレーズは、高校生の感性にはやはり端…

日本民族論

台風直撃でみんな気もそぞろ、街もなんだか浮き足立っていますね。サラリーマンにとって天災はハレの空間を作りだす装置だから、おとうさんたちは口々に電車止まるよ、早う帰れとうれしそうに若い人に声をかけて回っている。祭りですね。要所要所でオレは泊…

剣風

T区居合道連盟創立30周年記念大会へ赴く。T区とは縁もゆかりもない私だが、ひょんなことから下町にある道場に顔を出すことになってしまったのである。下町の道場には様々な人が現れるが、おおむね江戸っ子の臭いを濃厚に漂わすキャラクターが主流だ。長屋の…

境界の私

所用で京王線に乗り終点の橋本まで赴いたが、帰途思い立って「多摩境」という辺鄙な駅で降りる。駅前には、何もない。大袈裟ではなく、本当に何もない。がらんとした半地下の広場で、少年が一人、スケートボードの音をかたんかたん反響させている。降りたの…

忠太

所用ありて横浜・鶴見の曹洞宗大本山總持寺に赴く。しかし、何もかもデカイ。スケール感が狂う。敷地の一番奥にある大祖堂は千畳敷らしい。純然たる寺院建築だが、内部に柱が全く無いことからもわかるように、よく見ると構造的には巧妙だ。それもそのはず、…

始源の唄

音楽のある暮らしの中では、しばしばメルクマールとなるようなアーティストなりアルバムなりに出会い、しばらくはそいつを中心に生活が回ってしまうようなことがあるけれども、またそのようにこのところ、一枚のアルバムを繰り返し、聴いている。 うたばうた…

人名問題

『世界史B』(実教出版刊)をいただく。高校の教科書である。偏向的受験体制に特化した教育を行う高校で育ち、全く世界史を履修していない私は、今になって知識不足に悩んでいるのである。無理を見かねた知人が、業務用の一冊を恵んでくれたのである。 しか…

近代史とじいさん

アジア歴史史料センター(http://www.jacar.go.jp)がとんでもなく面白い。国立公文書館にある『太政類典』『公文録』や防衛庁防衛研修所にある『陸軍省大日記』等を、目録検索できるだけでなく、自宅から読むことができるのである。凄いプロジェクトである…

新宿血風録

昨夜9時20分頃、新宿駅中央通路中央付近。疲弊してとぼとぼ歩く私の前方50メートルあたりから、なんだか妙な雰囲気が波動のように伝わってきました。一人の男が──遠目にはごく普通のサラリーマンに見えたのですが──突進してくるのです。右手を前方に突…

日本近代写真

『日本近代写真の成立』(金子隆一他著、青弓社刊)を読む。写真が果たして芸術たり得るのか、という問題に、日本の写真界は長く苦しんだ。今もそうかも。欧米諸国の写真アーカイブの体制、大学教育の姿勢なんかをみると、やはり写真に対する体制が根っこか…

ふと開始の記

インターネット上での、ごくかぼそい繋がりしかないある知人の日記を、最近ぽつぽつ読んでいる。「最初から公開されている日記」というのは、90年代に成立した最新の表現形態ではなかろうか。その価値判断はひとまず措くとして、すでに厖大な、一種中途半端…