History

川土手

福井芳郎という画家については、私は全く知るところがなく、また特にこれから知ろうとも思っていない。 目立った仕事を残したわけでもなく、また画壇で成功したとも思われないこの画家の名を私が記憶しているのは、昭和20年8月、広島市西観音町2丁目角に陸軍…

姓名判断

日々諄々とニュース報道に接しながら疾うに接する重心はずれていて、昨晩も深夜の報道番組を横目で見ながら、姉歯一級建築士のナイスキャラにmixiのコミュできるのも時間の問題だなという感想しか湧かず、大体いまどき日刊新聞などを宅配で取り続ける理由は…

賢人とわたし(覚書)

誤解とか勘違いとか、そのようなものから生まれたなにか余滴のようなものが妙に芽吹いて、なかなか自分の内部でも大きな存在感を俄然発揮しつつあるのが可笑しい。読書会なるものに参加しているのだが、そもそもこの読書会が誤解から発生しているわけである…

alive?

ミシャグチの神はまことに蒼古としてゆるやかな神格で、もはやこの世には、このカミを祀る神社らしい神社すらない。 いや、神社という装置も、明治の御一新以降、異界とのアクセス・ポイントとしての機能をゆるやかに失いつつあるから、ことさら嘆かわしく言…

墳墓記

関東とは古来、日本の中の異空間なのであった。西からの視線において、である。武蔵野はその中心をなす空虚であり、古代武蔵国は分国配置では東海道から切り離され、不自然に東山道にぶら下がる形の地理感覚を以て都から空間把握されていた。東海道は海を渡…

美しき死体について

宮内庁近辺やら何やら、似合わないところをぐるぐるたらい回しで汗みどろ。どうなのだ。夏ではないか。すぐ日焼けするのが不愉快である。地黒なんである。日焼けして一層頭が悪そうに見えるのが余計不愉快である。上野までよろよろ辿り着き、東京国立博物館…

みりたり日和

九段下、俎橋の欄干から桜花で覆い尽くされた日本橋川の川面をなんとなく覗き込んでいると、通りすがりに私の顔をちらりと盗み見、何事かと視線を川に落とす人もある。九段会館の方角から歩いてきたステッキの老人が私の前で足を止め、靖国の桜ですね、と一…

必殺案内人

月曜日のことだが、自転車でフラフラ都立野川公園の前を通り過ぎていると、門前の横断歩道を渡った辺りに少し人だかりがしている。何かと思って近づけば、近藤勇先生生誕の地の史跡に観光客がいるのであった。大河ドラマってのは、たしかにスゴイんですな。…

E・サイード死去にあたって

以下は一昨日ニューヨーク・タイムズに掲載されたリチャード・バーンスタインによる追悼記事の世界最速弊研究所超訳である。かなりの長文になるが、9・11以降アメリカ内で彼の置かれた位置と、リベラルな立場からの彼の評価との現在の微妙な関係が読み取れる…

震災の記憶

数日来、地震の噂しきり。「予知」という疑似科学と科学の境界線上に発生する、噂の遠近法についてしばし考える。先日文化資源学会によって開催された関東大震災八十周年シンポジウムを参観したばかりだったので、思考の方向はより具体的な数値問題に傾いて…

保存≒標本化

早朝、東京駅丸の内口にて、ちょっと前に竣工した日本工業倶楽部会館の改築/増築工事を検分する。横河民輔一味設計の佳作のファサードと内部ロビーだけを残して、背後に高層ビルをぶち建てた物件である。結論からいえば、ギリギリ合格ではないか。無論こう…

戦後教育の失敗@勝小吉

少年犯罪花盛りの昨今のようであるが、統計的には終戦直後の方が凄まじいだの、質の変化を見るべきだの、まあ御意見百花繚乱皆それなりに頷ける。しかし今日、勝小吉の『夢酔独言』(平凡社東洋文庫、平凡社ライブラリー)を読んでいると、戦後もクソもなく…

或る手帳

帰宅すると、岐阜のHさんから大層な銘酒が宅配便で届いていた。昨年、戦時中の社会を反映するような印刷資料をぽちぽち集めた事があったのだが、それらの中に、召集された兵士の所持していた軍人手帖というものがあった。軍人勅諭やら戦陣訓やらが印刷された…

戦の記憶

『つげ義春の温泉』(つげ義春著、カタログハウス刊)を読んでいて、福島県の会津地方では彼の訪れた温泉の多くに私自身も逗留していた事に気付き、ちょっと驚いた。というのも、本書中に再録されたほとんどの漫画を読んだことがあったにもかかわらず、その…

狸蕎麦さらに

旧正月が狸蕎麦と共に明けた。これじゃまるで年越し蕎麦──なんて言うと江戸の戯作本の出来悪い洒落みたいか。まあ本件のアウトラインは判明したんであった。麻布七不思議のバージョンとしては、結構世に知れたものだったようである。つまり、この辺りにある…

狸蕎麦さらに

世の中には異常人が多いというか、まあそんな言いぐさは失礼とは思うが、狸蕎麦問題について早速レスがつけられた。大正年間に刊行された『東都新繁昌記』に麻布七不思議の一として「古川の狸蕎麦」が挙げられているらしいというのである。通常、狸関係の麻…

狸と塾生

江戸切絵図を見ていて、妙なものを見つける。広尾原、現在の白金の奧の広尾一帯だが、その隅に、ぽつねんと「狸蕎麦」と記されているのだ。江戸のことは詳しくないが、この辺は主に寺社地で、辺りには広い屋敷や寺ばかりだ。名物か何かだったのだろうか。し…

境界の私

所用で京王線に乗り終点の橋本まで赴いたが、帰途思い立って「多摩境」という辺鄙な駅で降りる。駅前には、何もない。大袈裟ではなく、本当に何もない。がらんとした半地下の広場で、少年が一人、スケートボードの音をかたんかたん反響させている。降りたの…

近代史とじいさん

アジア歴史史料センター(http://www.jacar.go.jp)がとんでもなく面白い。国立公文書館にある『太政類典』『公文録』や防衛庁防衛研修所にある『陸軍省大日記』等を、目録検索できるだけでなく、自宅から読むことができるのである。凄いプロジェクトである…