初台点景

初台に赴く。

駅から地上に出ると、玉川上水を埋めた緑道が、甲州街道沿いに延びている。地下には江戸時代と変わらず、多摩川の水が静かに流れているはずだ。

緑道沿いに、妙な風景がある。昔の長屋の一軒一軒が店になったような按配で、ひと気のない素人くさいカレー屋なんかが並んでいるのだ。早速カレー屋に入る。6畳一間ほどの店が表から丸見えで、不思議な感じ。ガイアカレー(笑)を喰う。そこを出て、また隣の6畳一間の丸見えの求道っぽい珈琲屋で、名前が覚えられない豆の珈琲を一杯。そこを出て、また隣の雑貨屋へ──なんか思い出すなァと考えたら、そうなんである、高校の文化祭なのだった。

初台・笹塚辺りは、オフ渋谷、オフオフ原宿・代々木といった風情を感じて、なんとなく居心地の良さがある。地理的には新宿に近いが、あまりその磁力は感じられないように思う。隣の西新宿の町が、あまりに強烈に古い新宿の町の気を溜めているからだろうか。山手通りがまた強烈にその気を断ち切っているのが面白い。
西新宿、古くは十二社と呼ばれた町だが、そこにはかつて大きな池があり、江戸期には一種の行楽地だったようである。風水の言説ならばこの見えざる池が新宿の気を深く溜め込む役割を果たしている、とでも言うだろうか。

用を済ましてまた長屋の前を通りかかると、求道珈琲屋の主人が何やら腕を組んで難しげに考え込んでいる。古本屋と珈琲屋の主人とは何故こうも難しげなのだろう。