熊、そして青山

新宿伊勢丹まで、知人Oさんの手作りテディー・ベアー展示会に赴く。
Oさんはいなかったが、2万円だの3万円だのという値札が付いていて、しかもほとんど御売約済の札がかかっていて、無知な自分は仰天する。デゥワー。いままで只でもらってしまっていた。いいのか。

その後、表参道駅。地下鉄から交差点に上がり、角の山陽堂書店の前に立つ。

昭和20年の山の手大空襲で青山を焼き尽くした火は、この山陽堂にも迫ったそうだが、明治の頃に豆腐屋だった建物の地下には井戸があり、その水をホースで店内にぶちまけ続けたそうである。入口からはどんどん避難する人たちが入ってきて、そちらにも水をかけ続け、この狭い店内に100人以上がひしめいてびしょぬれの一夜を明かしたそうだ。

外に出てみると、一面の焼け野原に、この山陽堂だけが残っていたのであった。入口の向かいに黒い堆積物があり、よく見ると焼けこげた人の山だった。

ちょうど私の立っている、地下鉄の出口の辺りである。ここに立つと私はいつも、足元がぬるぬると滑る気がする。そう、話はこう続くのである。黒い山に向かって歩いていった店主は足元を滑らせ転倒したが、よく見ると、あたり一面に、死体から沁みだした油が広がっていたのである。
表参道を歩く若者諸君! と私は演説したくなる。諸君の足元には、死体がうずたかく積まれていますぜ! 君たちの生は、如何なる強固な根拠もありませんぜ! 嗤ってる君! そそくさと逃げる君! 待ちたまえ! ほら、青山通りにぴったりと、耳をつけてみたまえ! 死者たちの声が聞こえんかね! 

我に返り、足を滑らせながら、原宿方向に向かう。待ち合わせには10分ほど遅れ。