本日の会話から

「じゃが軍隊ちゅうのは、一種の保守的な記憶装置だね……。イラク国防軍の高官たちの制服を見て御覧。大戦期の英国軍の軍装そのままだよ」
「ふうむ。イギリスがイラクにこだわるのは、言ってみればブッシュに勝手にやられてはたまらんという、かつてこの地に干渉し続けたオトシマエという面があるんですね」
「そうだな。おそらく基本的な戦術思想や、号令といったレベルも、英国軍のやり方を淵源としておるだろう」
「先生、私は国際情勢の話をしてるんですが」
「国際情勢とは軍事のことだろう」
「……英国は、英国風の軍隊と戦っているわけですか」
「冷戦期にソヴィエトの軍事顧問団が常駐しておったから、装備やら何やらは一切ロシア風じゃね。だが君、自衛隊だってすっかり米国風になっても、基本動作や号令は旧軍そのままだぞ。特に海の方など軍艦旗など旭日旗のままだぞ。軍隊というのは、守旧が自己目的なんじゃ」
「先生の話を受け売りでこのところ開陳しているのですが、全ての戦争は経験の反復に過ぎないと言ってよいのですね」
「そうじゃね。日々の戦況を見ると、戦史上に似たような事例がごろごろ転がっとる。たとえ武器やオペレーションの技術が進歩しようと、戦場を支配するのは恐怖という感情のみじゃ。ブッシュでもフセインでもどちらでもかまわんが、さっさと手を引いてもらいたい。このままバクダッド侵攻となると、わしはスターリングラード攻防戦やらの話を君にせんとならんようになる」
「どんなお話なのですか」
「……ひとつの都市をめぐる、ふたつの勢力の愚劣なお話だよ。厭な預言にならねばいいんだが」
「では、お聞きしましょう」
(後略)