看板力

東宝日曜大工センター」は知られざるテーマパークである。というのは半分本当である。以前にも言及したが、大東宝は東洋のハリウッドたる調布周辺の各所に広大なスタジオ用地を持ち、戦後の映画黄金期には昼夜兼行で野外セットの建設と破壊をくり返し、創造の女神に供物を捧げていたのだ。大袈裟か。まあいい。そこが今では「日曜大工センター」である。創造の美神には日々パパたちによる出来損ないの棚とかが捧げられているのである。私も捧げた。まあそれもいい。なにしろ野外セット用地であるから広いんである。金槌だけでもめくるめく種類である。あまりにも広いので、成城の店などは一部が住宅展示場になってしまった。その展示場のある場所は、『七人の侍』のクライマックス・シーン、泥濘の大チャンバラが繰り広げられた村の広場のオープン・セットが設営された、いわば映画遺産的な場所である。細々と流れる仙川を背後にして、反対側に並ぶ小綺麗な住宅群を心気を凝らして見つめていると、画面とカメラの位置関係が次第にわかってくるのだ。パナホームから血だらけの三船敏郎が飛び出してくるのである。

今日はもっと我が家に近い多摩川店に、自転車で赴く。駐車場で、『ターミネーター3』の大看板を職人さんが描いている。聞くと、東宝主催のイベントだという。ビルの壁面を覆うほど巨大なものだが、「こんなもん、4人で1日で描いちゃうよ」とのことだ。職人マニアの私はさっそく話し込んだが、最初の7、8年は修行だねッ、と先ずは威勢がいいと思いきや、現役世代は25年も描いているというベテランばかりで、もう新人はいないとのこと。やはりデジタルに押されている、らしい。芸大の若い衆が見学に来ると、最初はバカにしてるが、だんだん真剣になるぜ、と威張っている。

近所だからスタジオに遊びに来てよ、と誘われ、他日を約す。別れ際、おじさんの処女作は何ですか、と聞くと、忘れちまったなあ、と少し寂しそうであった。