帰省中にて

実家の小さな書棚は、最早混交して、家族の誰が購ったものかわからぬ書籍類が無秩序に突っ込んである。以前も書いたような気がするが、我が母は私が失踪している隙に彼女にとっては紙屑同然の我が蔵書を疾風のように段ボールに詰め、ミッション系の児童養護施設にあらかた寄贈してしまった。もし私の蔵書類を愛読する寂しい子供がその施設にいたなら、現在おそらく私同様に道を誤っているであろう。罪なことをしたものである。現在この本棚には、私が残骸を拾い集めたものなどが放置してある。結界を張り、二度と焚書に会わぬよう憲法を改正した後は、ごく平穏な日々である。

ぼーっと眺めていると、『おじゃまさんリュリュ』(一条ゆかり著、集英社コミックス)の隣に、『古都』(川端康成著、新潮文庫)が入っている。今まで気付かなかった。なんということなく読み出すと、当然世界中全てのダメ仲間たち同様、最後まで手放すことが出来ない。食卓で、少年の時のように、本を置くよう叱られる。しかし鋭い言葉の飛んできた当時と違い、両親は既に老人と化している。叱言も間延びし、呟くようだ。しかし親の本能は衰えぬものらしい。私は素直に本を置く。良い子である。

『古都』は川端がクスリをキメながら書いたと堂々告白しているが、内容は全くそれとわからぬ、たおやかなものである。中京の傾きかけた呉服問屋の娘が実は捨て子で、北山杉の村で生き別れた双子の姉妹に出会うという、昔の少女の甘い夢想のような話だ。よく読むとタイトル通り、この話の本当の主人公は京都という町そのものであるのが明白である。読みながら、この町の胎内巡りをしているような気分になる。

144頁、送り火、大文字の記述。「夜、松明の火を投げあげて、虚空を冥府に帰る、精霊を見送る習わしから、山に火をたくことになったのだともいう。」美しい記述。今日が、その日なのだった。読了後、夜半屋上ベランダに出、小さく火をたく。全く美しくない。昨年から今年、見送った3つの魂のことを、少し考える。階下より叱言。火を消す。良い子である。生まれ変わったような、良い子である。

おじゃまさんリュリュ (小学館文庫 おE 1)

おじゃまさんリュリュ (小学館文庫 おE 1)

古都 (新潮文庫)

古都 (新潮文庫)