保存≒標本化

早朝、東京駅丸の内口にて、ちょっと前に竣工した日本工業倶楽部会館の改築/増築工事を検分する。横河民輔一味設計の佳作のファサードと内部ロビーだけを残して、背後に高層ビルをぶち建てた物件である。

結論からいえば、ギリギリ合格ではないか。無論こういう「皮剥ぎ」の手法そのものについての最終的な判断は留保したいが、数軒隣の東京銀行協会が同様の手法で、こちらの方は建築の剥製を無造作にビルに貼付けたような無惨な出来を曝しているのを見れば、経済性なるものと文化財保存の妥協点の「好例」として、このレベルならむしろ積極的に評価せねば後が恐い。いや、いくら評価しても、もう遅いかもしれない。数多の近代建築の名作が、バブル期に何ら保護されることなく順調に破壊されてしまったのであるから。

しかしまあ、嘆いてみてもしかたがないのである。なんとか「こうすればクラシックでお洒落な人も集まる商業的なポイントになりまっせ」と言い続けねばならんと思うのだ。あっさり破壊されるより良いでしょう。無論最初からこの手で行けと流行してしまうのは勘弁願わねばならんが。

東京駅周辺ではそろそろ危ない物件が近所にもう一つある。吉田鉄郎設計の名作、東京中央郵便局である。さすがに建築学会や建築家協会等も敏感に反応して保存運動が立ち上げられているが、どうかなあ。官の所有物は、案外危ない。建築の保存なんて道楽だと思っとるからね。諸君、報道を注視していてくれたまえ。繰り返します。「東京中央郵便局局舎」ですぞ。お忘れなく。