本日の会話から

林達夫と村山槐多が京都府立一中で同級生だったの知っとるか」
「またそんな山口昌男みたいなこと。興味ないすよ」
「そうかね。結構驚いたがな」
「しかし先生と、このパターンは久しぶりですね」
「君は仕事が遅いから、しょっちゅう会っとるような気がするがな。そえはそうと君ィ、そういえばワシゃ、『千と千尋の神隠し』ちゅう映画を見たよ」
「……」
「ありゃなかなか面白いね。最後に汚れにまみれた腐れ神が浄化されて、老翁の面に蛇身の高位の神になるじゃろ。あの神の名は宇賀神ゆうてな。もちろん記紀にも延喜式神名帳にも登場せん。まあ中世に忽然と現れたした異形の神だね」
「はあー。偶然似たんじゃないすか」
「老人の顔に蛇体の神を頭上に乗っけた弁才天を宇賀弁才天と言うてね、池や川に祀られたんよ。あれ映画ではどこか名のある川の神ゆうことになっとるでしょ。よう考えてあるね。誰もこんなこと気にせんじゃろうが」
「考証しっかりしてるってわけですね」
「まあな。で、ああいった由来不明の神々は、明治の神仏分離でまさに虐殺されたんじゃが、その虐殺を鋭く告発したのが──」
南方熊楠でしょう。それくらい知ってますよ」
「ですがー、その南方の『南方随筆』を出した版元は?」
「ひっかけかよ」
「岡書院ていうのよ。いまワシはこの版元を追っててね、面白いんだ。社主の岡茂雄の書いた『本屋風情』って名著が中公文庫に入ってるで。酷薄人非人柳田国男とか三国志の豪傑岩波茂雄とか登場しておもろいで」
「文庫ヲタの私に言わせてもらえれば、それって品切れです。それよか地元で南方熊楠研究所の建築コンペが進行中でしてね、まさにこの18日に最終案が公開審査で決定するんですよ。隈研吾も落選しちゃいましたよ。最終案全てウェブ上で見られますんで、先生も予想どうです」
「うーむ賭けるか。竹中工務店案に500ディナールでどうか」
「ダメです。しかしまた行かなきゃならん場所ができるなァ」
「南方家は相当資料抱えとるからね。きちんとアーキビストが入るような運営を望みたいね。ところで熊楠の葬儀を仕切ったのは水原堯榮だったって知ってるか」
「誰すか」
「あの名著『邪教立川流の研究』を書いた、明治以降真言宗で唯一生涯不犯を通した高僧よ。そのくせ性的オカルティズムを研究したっちゅうこの本、いま古書価スゴイぜ。立川流ちゅうのはなー、」
「……なんか長くなりそうなんで、また来マース」