選択と集中

江戸期の豆本の撮影のため、国会図書館まで赴く。

途中、江戸川橋近辺で超絶渋滞に嵌る。
左手に石切橋を見たまま、微動だにしない。

鏡花が尾崎紅葉の息子の子守をさせられてこの橋あたりをぶらぶら歩いていた時、ふと川を覗くと、川底をこちらと平行してゆらゆら歩く子どもがいた。

という話を、思い出した。

怖いでしょう。

いやつまり、ドザえもんだったのです。表記が違うか。


江戸期の豆本は基本的に絵入りのお話であり、子どもの玩具みたいなものなので、現在遺されているものでもかなり落書きが入っているのが多い。いつの世も俺みたいなのがいるもんだ、と思って眺める。悪役の顔を全部墨で塗りつぶした奴がいる。子どもとは思えぬ達筆で稚拙なツッコミを入れたのがある。空いてるスペースに延々点を打ってるのがある。よく見たら登場人物の髭が全部落書きなのがある。落書きの方が見飽きない。

教科書の肖像写真、改変しませんでしたか。しねえか。
製図用の砂消しゴムで写真のシャドー部分に荒砥をかけ、硬度の高い鉛筆で精緻に仕上げるという手法で、かつて私は数々の傑作を世に送り出したものである。ヘーゲルをベースにした憂い顔の仮面ライダーとか、先夜の情事を回想する下卑た夏目漱石とか。作成には、かなり集中しても、だいたい授業時間1コマ〜2コマを要する。私は授業中に居眠りしたりするような不真面目な奴が大嫌いだ。

こんな本があった!江戸珍奇本の世界

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