狸蕎麦さらに

旧正月が狸蕎麦と共に明けた。これじゃまるで年越し蕎麦──なんて言うと江戸の戯作本の出来悪い洒落みたいか。まあ本件のアウトラインは判明したんであった。麻布七不思議のバージョンとしては、結構世に知れたものだったようである。

つまり、この辺りにある蕎麦屋に某夜母娘二人連れが現れ、食後に残していった幾ばくかの銭が、一夜明けたら只の木の葉に化けていた、と、いうものであった。
このようなありふれた、ありふれたというのもいかがなものかとは思うが、どこででも起こり得る怪異をわざわざ言上げするのは、麻布という地域に強いアクセントを置く必要のある情報資本が(大袈裟か)存在したに違いない。麻布七不思議と集めた時点でもう嘘臭くなって、素直な民話のムードなんか無いもんなあ。本所七不思議だのなんだの、江戸は不思議空間だらけだが、どうもそれらに対抗して一発当ててやれ、というムードを感じるのであった。新幹線通して地価上げてやれ、というのを江戸的にやるとこうなるのではないか。何の根拠もありませんが。

か細い名残として、狸橋という小さな橋が古川に残っているらしい。いずれ行くでしょう。