戦後教育の失敗@勝小吉

少年犯罪花盛りの昨今のようであるが、統計的には終戦直後の方が凄まじいだの、質の変化を見るべきだの、まあ御意見百花繚乱皆それなりに頷ける。しかし今日、勝小吉の『夢酔独言』(平凡社東洋文庫平凡社ライブラリー)を読んでいると、戦後もクソもなく、江戸末期こそ少年犯罪黄金時代であると確信するに至った。本書はおそらく東洋文庫収録作中、最も無教養な人物の書いた著作だろう。小吉は勝海舟の親父だが、いい年をして自分の名前すら書けなかったことを告白している。その中に繰り広げられる年少時の回想たるや、対立する不良グループのリーダーに斬りつけ下水の中に叩き込んでやっただの、親を騙して役目の金をちょろまかしただの、プチ家出だの通常家出だのサークルでの強姦だの(ウソ)、ろくでもないエピソードのオンパレードである。巻頭と巻末にとってつけたような子孫への道徳訓がバラバラと書いてあるが、中はワルの思い出話と自慢話である。まことに痛快かつバカバカしい。底辺の御家人という中途半端な遊民層が、近世末期の全てが極まってゆく世相の中でどのように生活していたのか、リアルな語りで再現される。社会学の聞き取り調査のようなもんだが、本書の存在こそよく知られているものの、社会史の方でまともな学問的対象になったことはあまり無いんじゃないか。一人の小吉の背後にはその存在を規定する武家社会があるわけで、その相関関係が興味深い。犯罪の質は全て個人の資質によって形づくられるのではないというところが、当たり前だが、ポイントである。

夢酔独言 他 (東洋文庫 (138))

夢酔独言 他 (東洋文庫 (138))