夏と修羅

伊勢丹古書市にて、新宿まで赴く。

昨年同様、初日は書痴どものワンダーランドである。ぶつぶつ呟きながら戦前の児童雑誌ばかりカゴに突っ込んでいる長髪の若い男、並べられた絵葉書を超高速スクロールしているカッターシャツの爺さん(糊の利いたそのシャツはまばゆいばかりに白いが、ベルトを自らへの懲罰の如く締め上げたズボンは、ボロボロに摺り切れている)、抽選で当たった古雑誌揃い数十冊のビニールパックを、全て開けて状態の良いものだけ買うとゴネている髭親父、尋常ならざる後ろ向きの暗い情熱が会場を支配している。楽しい。ずらっと並べられたレジに控える伊勢丹の女性店員たちが、やはり今年も恐怖に満ちた眼で書鬼どもの修羅場を見つめているのが、笑える。

事前に目録に出ていた江戸期の安物の仏画、妙な図様だったので現物を見ようと思っていたのだが、早速売れてしまったようで見当たらない。ウロウロしていると、大正9年刊の『淫神邪教と迷神』(横山流星著、二松堂書店)なる書が目についたので、購入。なかなか傑作である。「著者は微力ながら今日の社会から凡らゆる邪教淫神を撲滅し、一切の迷信を排除したいと冀ふあまり本書を公にしたわけである」と前言は格調高いが、エロティックな神さまを追及する筆致は身もだえせんばかりで、なかなかおかしい。うーむ……まあ、引用は自粛しておこう。