2003-01-01から1年間の記事一覧

愚人の回想

緊急の書き物があって駅横のありがちなコーヒーショップに飛び込む。全く以てこういう場所でないと原稿が書けないという、まことにありがちな、因業な体質なのである。あなたのお知り合いにもいませんか。しかし私の場合多少重傷気味で、まあたとえば学生時…

畸人怪人神保町に現る

例の名物店長S氏の仕切る神保町T堂書店まで、山口昌男VS高山宏トークショウの為出張る。一応それらしくウロウロするが、S店長に、予約無い人の入場はどうすんのとツッコまれ一瞬答えられず、ドヤされる。こういうイヴェントではいつも集客状況にやきもきする…

拮抗を超えて新しい未来へ

カープ=ヒロシマ聖戦機構からは「波状的自爆攻撃で裏切り者盡頭子に死を」というメッセージが、革命的鯉主義者同盟巣鴨派からは、「カープの弱点を隠蔽し賞揚し続ける日和見スターリニスト盡頭子を徹底殲滅する」という宣告が、大日本青年鯉軍宣揚会からは「…

阪神タイガースマジック点灯によせて

あの年、広島カープは2度目のリーグ優勝を決めようとしていて、夏休み明けの教室はどうにも落ち着かなかった。初優勝からしばらくの間が空き、しかもマジックナンバーの計算上、初めての地元における優勝決定という感激が味わえそうだったのである。9月末、…

再度人文資源を論ず

戦前の大都映画とか河合映画などというマイナー映画会社というのはなんとも、とらえどころのない活力というか、出鱈目さというか、精力に満ちあふれているのである。その辺の資料を少々整理しているのだけれども、20〜30年代の、映画史上は黙殺されている、…

尾道物語

不祝儀ありて尾道まで赴く。鈍行列車がゆるゆると滑り込んだ午後の田舎駅は、まったく、弛緩しきって物音ひとつしない。改札を抜けると、何者かがキュー出ししたかのように、静かに町の音が流れ始める。遠くから向島行きフェリーの汽笛が聞こえる。駅前のぬ…

晴雨は責め絵だけではありません

伊藤晴雨の『文京区繪物語』(昭和27年・文京タイムス社刊)を古書店で買って読んでいたら、講談社を称して「“講談社末期の水も野間清治”と或る人が云ったのは、偉人野間清治氏に対して怪しからん次第である」という一文があって、腹抱えて笑ってしまった。…

ドモンとニッポンとヴィデオテープ

NHK仙台のディレクターY氏から、ヴィデオテープが送られてきた。以前当方も取材されたものが、先頃放映されたらしい。早速拝見。私のところで撮った絵は当然カットされているだろうと思って気楽に見ていたら、突然画面に自分が現れたのでかなり焦った。しか…

天皇の世紀

『「天皇」と呼ばれた男 撮影監督宮島義勇の昭和回想録』(山口猛編・愛育社刊) はなかなかの大冊で、手強そうな外観だが、よく作り込まれていて読むのには難渋しない。かつて日本映画界に在位した二人の天皇のうち、黒沢天皇はあまねく知られているが、も…

いまひとたびのNeXTを

知人の中には某大学図書館の基幹情報システムの管理者のくせにハッカー/クラッカーであるとか、パソコンマニア上がりの某コンピュータ系版元編集長であるとか、まあ有難いことにそのような人々が存在してくれて、それらのかなり先鋭な連中が信じられんよう…

avec la collaboration de Jacques Tati

昨夕、先日も言及したジャック・タチの『プレイタイム』先行上映に赴く。午後9時開場の渋谷パンテオンにはかなり長い行列ができており、若い人が多く、この一連の上映を通じて新しい共通認識ができるんだなあ、という思いであった。一夜限りの限定上映、しか…

俺は結局パンクに生きることはできなかった

今朝、運転しながら、写真家のハービー山口氏がJ-WAVEに登場して80’sロンドンの音楽シーンの思い出を語っているのを聴く。洋楽ジャーナリズムがイギリスを中心に回り、わが国もバブルパワー全開で雑誌などガンガン海外取材ができた時代、ハービー氏の写真は…

ライトinバクダッド

art

フランク・ロイド・ライトという建築家についてはもう20年ぐらいあれこれ考えているが、今日ある建築家と話していて、このところ誰も言及しない彼の建築計画の事を思い出した。通称「baghdad Project」、文字通りイラクの首都計画である。1957年に彼が取り組…

看板力

「東宝日曜大工センター」は知られざるテーマパークである。というのは半分本当である。以前にも言及したが、大東宝は東洋のハリウッドたる調布周辺の各所に広大なスタジオ用地を持ち、戦後の映画黄金期には昼夜兼行で野外セットの建設と破壊をくり返し、創…

調布詩人

もうなんだか無闇に暑い。西田書店から出たばかりの『菅原克己全詩集』を自転車の籠に投げ入れて、野川まで走る。私は詩には全く暗くて、この詩人についても、その夫人が亡くなるまで何も知るところがなかった。彼女は一昨年、自宅の火災で煙に巻かれ、夜半…

白く消えゆくもの

カレッタ汐留なるビルに赴く。かつての汐留貨物駅の再開発地に建つ話題のビルである。ジャン・ヌーベルらしい不定形のデザインが斬新だが、内部の構造があまりに複雑で、堂々巡りのカフカ状態に陥る。各所に手書きの案内図や矢印が張ってあり、モダンな通路…

或る手帳

帰宅すると、岐阜のHさんから大層な銘酒が宅配便で届いていた。昨年、戦時中の社会を反映するような印刷資料をぽちぽち集めた事があったのだが、それらの中に、召集された兵士の所持していた軍人手帖というものがあった。軍人勅諭やら戦陣訓やらが印刷された…

本日の会話から

「じゃが軍隊ちゅうのは、一種の保守的な記憶装置だね……。イラク国防軍の高官たちの制服を見て御覧。大戦期の英国軍の軍装そのままだよ」「ふうむ。イギリスがイラクにこだわるのは、言ってみればブッシュに勝手にやられてはたまらんという、かつてこの地に…

戦の記憶

『つげ義春の温泉』(つげ義春著、カタログハウス刊)を読んでいて、福島県の会津地方では彼の訪れた温泉の多くに私自身も逗留していた事に気付き、ちょっと驚いた。というのも、本書中に再録されたほとんどの漫画を読んだことがあったにもかかわらず、その…

伯父さんのこと

art

ジャック・タチ伯父さんのことを知人とともに追いかけるあまり、昨年は伝記まで刊行することになってしまったが、いろいろ仕掛けた結果(と言って私は何もやってないが)、どうも今年は本格的にタチブームが到来しそうな勢いだ。6月には東京を中心に『ぼく…

『娼婦と近世社会』(曽根ひろみ著、吉川弘文館刊)がなかなか読ませる。今年の個人的ベストテンの有力候補である。日本近世史専攻の著者による、日本史プロパーの版元刊行という構えからして、一見よくある江戸ものの遊郭話かと思わせるが、実は中世と近世…

熊、そして青山

新宿伊勢丹まで、知人Oさんの手作りテディー・ベアー展示会に赴く。 Oさんはいなかったが、2万円だの3万円だのという値札が付いていて、しかもほとんど御売約済の札がかかっていて、無知な自分は仰天する。デゥワー。いままで只でもらってしまっていた。い…

本日の会話から

「WTCの再建案がリベスキンドのやつに決まったそやねえ。どうかな、ユダヤ人の持つホロコーストの記憶と「9・11」が危うい政治性で一直線に繋がったゆう感じかな」「うーん、これ、むずかしいっすね。実際彼の建築はプロジェクト毎に評価しなきゃいけないん…

事件。

夜になって会社に忘れ物をしていることに気付く。間の悪い事に明日は会社へ行かない事になっているので、仕方なく出掛け、22時になって会社にたどり着く。会社の前から建物を見上げると、日曜の夜も更け、全館真っ暗で深閑としている。弊社は伝統的に、業界…

雨中転々

昨日に引き続き写真美術館にてワークショップ。川田喜久治の写真集『地図』(1965)が海外のオークションで現在100万円前後の値が付くと聞き、驚愕。現在60年代の日本の写真、及び写真集は世界的に注目されており、今年などはもうすぐアメリカで戦前から現在…

バブル、日々の

1989年、毎夜毎夜の新宿で、泥酔しつつも必死の思いでタクシー止めようと手を振り回していたが、深夜3時に行き交う空車は私の存在を断固として認めぬとでも言いたげに何故かスピードを上げる。あの空車たちは一体どこへ向かっていたのか、今でも不思議でなら…

説教

中学生相手に熱弁を振るう。「きみたちは全てをムカツキに還元してしまっているが、ムカツイている時点で対象のムカツキに染められているわけで、ムカツク行為によって結局問題の内部にひきこもってしまっているのではないか。メタレベルから問題を見ない限…

マキさんのこと

京王線の車内で藤原マキ『私の絵日記』(学研M文庫)を読みながら、馬鹿になってしまい、泣く。とうとう本物の、馬鹿になってしまったようだ。目の前に座っている女子高生が時折不審げにチラチラ私を見上げる。無理もない。馬鹿なのだから。どこから聞いた…

ハムレット

「フッサール家の庭の戸口まで来たとき、彼の深い不快感が爆発した。『ドイツ観念論のすべてが私にはいつも糞食らえという感じだった。私は生涯にわたって』──こう言いながら彼は、銀の柄のついた細いステッキを振るわせてから、そのステッキを戸口の柱に押…

ドキュメント

武蔵野人文資源研究所の設立一週間記念特別研究会を、客員研究員でTheatre of Philosophy主宰者である吉田浩氏を迎えて開催する。会場となった深大寺温泉「ゆかり」付属国際会議場では、子どもの泣き声や風呂上がりのオッサンの罵声の間隙を縫って、真剣な討…