都ノ駅家ニテ異形ノ者ニ遭フ事

夜半の東京駅、吐き出されるように新幹線から降り立つと、ホームのゴミ箱に延々長い行列ができて、みな粛々と缶ゴミ弁当ゴミ分別して捨てている。マナー良好と言うべきなのだろうが、ビッグ・ブラザーに馴致されたる風情なきにしもあらず。と思う。先のワー…

西行

夕刻、新幹線に。東京駅でお供のひとつとして「en-taxi」5号を買う。結構箴言あり。「こういう世間話をきちんとできるところが浅田彰の凄いところだ。高貴という形容が似合う、数少ない現存日本人である。愛子内親王が立太子する場合には、教育掛に任命する…

みりたり日和

九段下、俎橋の欄干から桜花で覆い尽くされた日本橋川の川面をなんとなく覗き込んでいると、通りすがりに私の顔をちらりと盗み見、何事かと視線を川に落とす人もある。九段会館の方角から歩いてきたステッキの老人が私の前で足を止め、靖国の桜ですね、と一…

∀組版論

先日の花見の宴で同席したM印刷の「全身営業家」T氏に、「おたくでやってるアクマ書房さんの単行本で『テクストはマチガエル』ってあったじゃないですか。あれ本文の組版、なんか端正でしたよね。書体なんだったかわかります?」と問うと、「そうあれあれ、…

高円の山の桜はいかにあらむ

夜の上野公園の桜は全山に張り巡らされた真赤な提灯に照らされなんとも淫靡な風情で、その灯下にとぐろを巻く人また人、人、人よ。辺り一面薄暗いピンク色の中に蠢く人々の狂態。聞きしにまさる物凄さだ。考えてもみよ。なにしろ酔っぱらいが数十万人いるん…

カメラ香具師

日曜、好日、好天。ボロカメラの実験のため、近隣を周遊してみる。例のフレクサレットである。おそらく喫緊に処理を要すらしいもろもろを机上に置き去り、夜逃げのようにこそこそと出てゆく。カメラを持つと、何故かこそこそしてしまう。理由はわからない。…

古書宴

このところ、古本をめぐるあれこれを気の利いた語り口で雑誌やメルマガ等に開陳しているN氏と一夜、酒席を囲む。N氏宅には毎月30冊を超える古書目録が届くというのだから、その様や壮観である。なにしろ買った本など開く暇もなく、目録を読んでいるだけでま…

ヤンキー、編集者になる

と書いてみたかったのだ。流行ってるらしいし。しかし半ば本当である。いやヤンキーの方が。「編集者」の方が当然ながら嘘くさいのである。「日本人の半分は『銀蠅的なもの』を必要としている」と喝破したのは故ナンシー関であるが、こう宣告して去っていっ…

60年代テスト

嵐山光三郎の『口笛の音が聞こえる』(新風舎文庫)を知人が貸してくれて、まあ60年代の青春、あるいは当時の平凡社の有様を描いた内容も興味深いんだけれども、その中に「ナジャと呼ばれる女の32の条件」なるものが掲げてあって(『ナジャ』とはアンドレ・…

記憶と

S社の「小説S」増刊、警察小説の特集号のためにある便宜を図ったら、K副編から当該号が送られてきたので、読み耽る。「ちらりとしか紹介できずに恐縮」とのことだったが、まあこんなもんだろう。ミステリを読む機会が滅多にないから、当代売れっ子の短編…

『書店風雲録』風雲録

「とにかくリストなんだよ。リスト作ってよ。それでフェアやるから」と、イマイズミ氏は繰り返した。同席していた私の同僚フジワラ編集氏の方を盗み見ると、バッチリ目が合い、オマエやれよ、とその目が語っている。そりゃ営業の仕事じゃないんじゃないの、…

弟子、その他の物語

先日八重洲大丸での「中原淳一展」を念のためチェックしたあと、有楽町マリオンまで足をのばして「近代写真の生みの親 木村伊兵衛と土門拳」展を参観したわけだが、どうにもこの「近代写真の生みの親」という意味がわからない。どう転んでもこの二人は「近代…

組版論

InDesignとQuarkExpressの設計思想の相違は、編集者からみればネイティブのワープロにあるような原稿用紙的発想があるかどうかという点に尽きるが、DTP技術を発展させデファクトスタンダードになっていたQuarkが、結局伝統的な日本語組版の思想を破壊してし…

ただ刻んでいた男のこと

art

渋谷の松濤美術館に赴く。「谷中安規の夢」展を参観。展観のサブタイトルに「シネマとカフェと怪奇のまぼろし」とある。昭和初期の彼の作品には版画という表現が本質的に備えている洒脱な芸術性そのものが独自の幻想性と相俟って強く感じられ、30年代の空気…

山紀行

雲ヶ畑というのは幻のような地名である──と言ったところで京都全体が人の住むのも疑われるような儚い地名で満ちているわけだが、とりわけ仙人の夢想じみた名を付されたこの地はやはり洛北の山中にあって、いま私の目前には、慎ましく杣仕事を生業としている…

必殺案内人

月曜日のことだが、自転車でフラフラ都立野川公園の前を通り過ぎていると、門前の横断歩道を渡った辺りに少し人だかりがしている。何かと思って近づけば、近藤勇先生生誕の地の史跡に観光客がいるのであった。大河ドラマってのは、たしかにスゴイんですな。…

此岸過迄

風景が一点に、遠近法を強調するように消失点に向け消えていくような場面に遭遇すると、どうしてもカメラのシャッターを切ってしまうと云った人がいた。わかるような気がする。日本国における日常生活で、そのようなスケールの場に身を置くことはあまりない…

歳月と

慌ただしく実家を立つ正月明けの玄関先で、靴箱の上に置かれた鏡餅を眺めていた父親がふと思いついたように顔を上げ、そうじゃ、あと2年ぐらいで会社を閉めることにしたで、と言い残し、言い残したと思ったらもう定位置の炬燵へ戻っていった。もう表にはタク…

どうよ自分、とキムタクは言った

BSデジタルハイビジョンの「松田聖子カウントダウンライブ」など見て新年を迎えたりしている私である(しかも結構楽しんで)。もはやエグみしか残存していないようにも見える彼女にも、共に春秋を過ごしてきた年月を考えれば、ある程度の思い入れを自らに許…

会社の終わりとハードボイルド・ワンダーランド

というわけで、会社納めである(仕事納めにあらず)。一年前も全く同じことを書いている。サラリーマンの日常に変化があってたまるか。昨年も一人きりになって錯乱し急速潜航中にバルブを開けたりして種々の修羅場を惹起したわけであるが(12/27日記を見よ)…

シンポ。そして暗い予言。

午後麹町JCII(日本カメラ財団)にて名取洋之助研究会のシンポジウム。重い本を引きずりながら持ってゆき、展示する。皆さん結構見てくれる。しかしずっとじんじん痺れて手がちぎれそうだ。紙というものは、重いものなのである。名取の写真は、端的に言って…

渡河作戦に臨む

某大大学院にちょっと顔を出していた頃の学生さん、N君と久々に再会。会食歓談。論文ネタ2本発表してもらう。なかなか面白い。歴史学の社会学化について感想を述べるが、文献史料操作中心にこつこつやる学術は全く孤立化の様相を強めるばかりで、孤独感を訴…

忙中閑ありて

終日、家に籠もる。先日赴いた、横浜美術館における「中平卓馬展」で買い求めた『中平卓馬の写真論』(リキエスタの会刊)を集中して読み、考える。中平卓馬の写真論作者: 中平卓馬出版社/メーカー: 《リキエスタ》の会発売日: 2001/04メディア: 単行本 クリ…

本日の会話から

「また戦争の話でしょ先生……もうやめましょうよ……」 「いつまでも言い続けるぞよ。冷戦が終結したあの頃にな、歴史が終わったと勘違いした者が続出したが、結局新たな「戦前」が始まってたに過ぎんということがようやく明白になってきた訳じゃからね」 「臨…

紙爆弾テロ

日本ムスリム協会が、会社宛に突然荷物を一箱送りつけてきた。当然の事ながら弊社にはイスラム教徒はいない(はずである)。時節柄、偏執長は荷物に不審の目を向け、「あれだろ、アルカイダは日本も標的にするって言ったんだろ、怖いなおい大丈夫か」とウロ…

青騎士の方へ

art

過日小金井で美術古書を扱っているえびな書店から届いた目録は、特集が「1920年代の美術」となっていた。ここの目録は見るところ古書業界の東の大関と言っていいと思うが、カラー口絵まであり、堂々の季刊である。もうなんだか読むだけで勉強になる。値段ま…

選択と集中

江戸期の豆本の撮影のため、国会図書館まで赴く。途中、江戸川橋近辺で超絶渋滞に嵌る。 左手に石切橋を見たまま、微動だにしない。鏡花が尾崎紅葉の息子の子守をさせられてこの橋あたりをぶらぶら歩いていた時、ふと川を覗くと、川底をこちらと平行してゆら…

シット・インのことども

例によって、と言うべきか、休み前に体調急降下、風邪なのか何なのか、連休中ほぼ臥所の中で過ごす。2日以上世間との交わりを絶っていると、どうも自分はこの世で無用の者なのではないかという思いが頭上の空間にむくむくと大きく膨らむ感覚が現れる。この感…

いまここにある戦場

広島の路上で米兵が撃たれ重傷、男が乗用車内から発砲 26日午前4時ごろ、広島市中区流川町の市道で、乗用車を運転していた男が、前を歩いていた米軍岩国基地所属の米国人男性海兵隊員3人に向かって拳銃1発を発砲した。 男は車から降り、1人の胸に銃を突きつ…

本日の不届者(二人)

生徒に模造刀振り下ろす 「礼儀教える」と中学教諭 大阪市住吉区の市立大領中学で今年4月、2年生の担任の男性教諭(54)がホームルーム中、鉄製の模造日本刀を男子生徒の首に振り下ろす動作をしていたことが24日、分かった。 同中学によると、教諭は「生徒に…